私が訪問リハビリに携わるようになってから、何度も立ち会ってきた時間があります。
それは、人生の最終章です。
がんや難病など、病気が進行し、「治す」ことよりも「穏やかに過ごす」ことが大切になる時期。
作業療法士として、その時間に寄り添わせていただくたびに思うことがあります。
人生の最期とは、「終わり」ではなく、その人らしく生きる時間なのだ。
「もうリハビリは必要ありません」
終末期になると、こんな言葉を耳にすることがあります。
「もうリハビリをしても良くならないから。」
「歩けなくなったし、もう意味がない。」
その言葉を聞くたびに、私は少し切ない気持ちになります。
確かに、身体機能の回復だけを目的にすれば、できることは限られてくるかもしれません。
でも、作業療法は身体を治すためだけのものではありません。
「今日はお気に入りの服を着たい。」
「庭の花をもう一度見たい。」
「家族と一緒にご飯を食べたい。」
「孫に『ありがとう』と伝えたい。」
そんな一つひとつの願いを支えることも、大切な作業療法です。
リハビリには、「生きる時間を豊かにする」という役割があります。
その人にとって大切なものは何か
私は訪問に伺うたび、利用者さんに教えられることがあります。
ある方は、毎朝仏壇に手を合わせることを何より大切にしていました。
ある方は、自宅の庭に咲く季節の花を見ることが楽しみでした。
またある方は、家族と夕食を囲む時間を心待ちにしていました。
どれも特別なことではありません。
でも、その人にとっては、人生そのものと言えるほど大切な時間でした。
私たちはつい、「何ができるか」に目を向けがちです。
しかし、本当に大切なのは、「何を大切にして生きたいのか」ということではないでしょうか。
「できなくなること」より、「できること」に目を向ける
終末期では、少しずつ身体の変化が訪れます。
歩けなくなる。
食べられなくなる。
話すことが難しくなる。
その現実は、とてもつらいものです。
だからこそ私は、「失ったもの」だけではなく、「今もできること」を一緒に探したいと思っています。
窓から空を眺めること。
好きな音楽を聴くこと。
手を握ること。
家族と笑い合うこと。
ありがとうを伝えること。
できることは、決して身体を動かすことだけではありません。
心が動く時間も、その人にとって大切な「作業」です。
「その人らしさ」は最後まで残る
身体は少しずつ変わっていきます。
でも、その人らしさは、最後まで失われるわけではありません。
仕事を一生懸命頑張ってきた人。
家族を大切にしてきた人。
料理が好きだった人。
花を育てることが好きだった人。
誰かを笑わせることが好きだった人。
その人が歩んできた人生は、病気によって消えてしまうものではありません。
だから私は、その人が大切にしてきた役割や思い出、価値観を大事にしたいと思っています。
作業療法とは、その人らしさを見つけ、その人らしさを守る仕事でもあると感じています。
私が終活を学び始めた理由
終末期の利用者さんやご家族と関わる中で、医療だけでは解決できない悩みがあることを知りました。
「家族に迷惑をかけたくない。」
「相続のことが気になっている。」
「自分の思いを家族に伝えられていない。」
そんな声をたくさん聞いてきました。
だから私は、相続終活専門士やファイナンシャル・プランナーの資格を取得しました。
終活とは、「死ぬ準備」ではないと私は考えています。
終活とは、自分らしく生きるための準備です。
自分の思いを整理し、大切な人へ伝え、安心して毎日を過ごすための時間なのです。
「ありがとう」があふれる最期
私はこれまで、多くの最期の時間に寄り添わせていただきました。
不思議に思うことがあります。
最期に残る言葉は、「もっとお金が欲しかった」でも、「もっと仕事をしたかった」でもありません。
「ありがとう。」
「幸せだった。」
「家族に出会えてよかった。」
そんな言葉が多いのです。
人は人生の最後に、何を大切にして生きてきたかが、その言葉に表れるように感じます。
だからこそ、私は今を大切に生きたいと思います。
家族との時間を大切にすること。
友人とのつながりを大切にすること。
誰かの役に立てる仕事を続けること。
そして、一日一日を丁寧に積み重ねること。
その積み重ねが、その人らしい人生につながっていくのだと思います。
おわりに
私は作業療法士として20年間、多くの人生の最終章に立ち会わせていただきました。
そこで教えていただいたことがあります。
人生の価値は、「どれだけ長く生きたか」ではありません。
「どれだけ自分らしく生きられたか」なのだと思います。
だから私は、これからも利用者さん一人ひとりに問い続けたいと思います。
「あなたが大切にしていることは何ですか。」
「あなたは、どんな毎日を送りたいですか。」
その答えは、一人ひとり違います。
だからこそ、その人だけの人生があります。
作業療法士として私が支えたいのは、身体だけではありません。
その人の人生、その人の想い、その人らしさです。
人生の最期まで、その人らしく生きるために。
私はこれからも、一人ひとりの人生に静かに寄り添いながら、その人が大切にしてきた「作業」と「想い」を未来へつないでいきたいと思います。
そして、このブログを読んでくださったあなたにも、一つだけ問いかけたいと思います。
もし今日が人生最後の日ではなかったとしても、「今日を自分らしく生きた」と胸を張って言えるでしょうか。
その問いへの答えを探し続けることが、人生を豊かにする第一歩なのかもしれません。
