「作業療法士って、どんな仕事をする人ですか?」
20年間、この質問を何度も受けてきました。
新人の頃の私は、「食事や着替え、トイレなどの日常生活動作を支援するリハビリの専門職です」と答えていました。
もちろん、その説明は間違いではありません。
しかし、20年間、多くの人の人生に寄り添ってきた今、私の答えは少し変わりました。
作業療法士とは、その人が『自分らしく生きる』ことを支える専門職です。
今日は、その答えにたどり着くまでの20年間を振り返ってみたいと思います。
新人だった頃の私は、「できるようになること」がゴールでした
作業療法士になったばかりの私は、「治すこと」に夢中でした。
認知運動療法を学び、麻痺した手が少しでも動くように、歩ける距離が少しでも伸びるように、一つひとつの変化に喜びを感じていました。
患者さんが昨日よりできることが増える。
その積み重ねが、作業療法士としての喜びであり、自分の成長でもありました。
でも、経験を重ねる中で、ある疑問が生まれるようになりました。
「できるようになることが、本当にその人の幸せなのだろうか。」
「何ができるか」より、「何をしたいか」
急性期病院では、命を守ることが最優先です。
身体機能を回復させ、退院につなげることが大切な役割です。
一方で、退院後の生活までは見えにくい現実もありました。
その後、訪問リハビリに携わるようになり、私は初めて患者さんの「暮らし」を知ることになります。
家族と一緒に食卓を囲む時間。
毎朝、庭に咲く花を見ること。
仏壇に手を合わせること。
地域の人との何気ない立ち話。
病院では気づけなかった、その人らしい日常がそこにはありました。
そして私は気づきました。
歩けることが目的ではなく、歩いて庭に行きたい。
手が動くことが目的ではなく、孫の手を握りたい。
料理ができることが目的ではなく、家族に最後の食事を作りたい。
リハビリの本当の目的は、「機能」ではなく、「人生」なのだと。
終末期で教えられた「生きる」ということ
訪問看護ステーションでは、多くのがん終末期の利用者さんとも出会いました。
終末期では、身体機能が回復するとは限りません。
むしろ、少しずつできることが減っていく現実があります。
それでも、その方々は決して「生きること」をあきらめてはいませんでした。
「家で家族と過ごしたい。」
「愛犬を抱っこしたい。」
「最後まで自分の布団で眠りたい。」
「孫の成長を少しでも見届けたい。」
そこには、「できる・できない」では測れない、生きる意味がありました。
私は何度も胸を打たれました。
作業療法士が支えるのは、身体だけではない。
その人の希望や願い、役割、そして人生そのものなのだと。
「作業」とは、その人らしさそのもの
作業療法では、「作業」という言葉を使います。
一般的には、仕事や家事を思い浮かべるかもしれません。
でも、私が考える「作業」はもっと広いものです。
朝、好きな音楽を聴くこと。
家族に「おはよう」と声をかけること。
散歩をすること。
趣味を楽しむこと。
誰かを笑顔にすること。
仕事をすること。
誰かの役に立つこと。
そして、大切な人と静かに過ごす時間も、その人にとってかけがえのない「作業」です。
人は、意味のある活動を通して、自分らしさを感じます。
だからこそ、「作業」は人生そのものなのだと私は考えています。
作業療法士は、「人生の伴走者」
20年間で、私は多くの人生に出会いました。
病気を乗り越え、新しい人生を歩み始めた方。
障害を受け入れながら、自分らしい生活を築いた方。
住み慣れた家で、最期まで笑顔で過ごされた方。
その一人ひとりの姿から教えていただいたことがあります。
作業療法士は、人生の主人公ではありません。
人生の主人公は、いつも利用者さんです。
私たちは、その人の人生を代わりに歩くことはできません。
でも、その人が自分らしい人生を歩めるように、そっと隣を歩くことはできます。
嬉しい時も、不安な時も、悩んでいる時も。
その人の思いを受け止め、一緒に考え、一緒に歩む。
私は、そんな「人生の伴走者」でありたいと思っています。
20年間でたどり着いた答え
20年前の私は、「身体機能を改善すること」が作業療法士の役割だと思っていました。
今は、少し違います。
もちろん、身体機能の回復は大切です。
しかし、それは目的ではなく、その人らしい人生を実現するための手段の一つです。
本当に大切なのは、その人が何を望み、何を大切にし、どのように生きたいと願っているのか。
その思いに耳を傾け、その人らしい生活を一緒に考え、支えていくこと。
それが、私の考える作業療法です。
おわりに
私は20年間、多くの方々と出会い、多くの人生を見つめてきました。
そして、その経験を通して教えていただいたことがあります。
人は、「できること」が増えたから幸せになるのではありません。
自分らしく生きられると感じたとき、人は幸せを感じるのではないでしょうか。
だから私は、これからも身体だけを見るのではなく、その人の人生を見つめ続けたいと思います。
作業療法士とは何か。
20年間の私の答えは、とてもシンプルです。
作業療法士とは、その人の「できる」を支える人ではなく、その人の「生きたい」を支える人。
私は、これからもその答えを胸に、一人ひとりの人生に寄り添い続けたいと思います。
