「作業療法士の仕事は何ですか?」
そう聞かれると、以前の私は迷わずこう答えていました。
「身体や心の機能を回復し、その人が日常生活を送れるよう支援する仕事です。」
もちろん、その答えは間違っていません。しかし、20年間という時間の中で、私はもう一つの答えにたどり着きました。
作業療法とは、その人が『その人らしく生きる』ことを支える仕事である。
これが、今の私の答えです。
新人時代、「治すこと」が私の目標だった
作業療法士になったばかりの頃、私は認知運動療法を学び、身体機能の改善に夢中になっていました。
麻痺した手が少しでも動くように。
歩けなかった人が歩けるように。
一人で着替えができるように。
患者さんの「できること」を増やすことが、自分の使命だと思っていました。
毎日のように文献を読み、先輩に教わり、試行錯誤を繰り返していました。
患者さんが昨日より少しでも動けるようになることが、自分自身の喜びでもありました。
急性期病院で感じた「命のその先」
その後、市民病院で急性期医療に携わるようになり、多くの疾患や患者さんと出会いました。
脳卒中、骨折、心疾患、呼吸器疾患、がん…。
昨日まで元気だった人が、ある日突然、人生を大きく変えられてしまう現実を目の当たりにしました。
急性期病院では、「命を救う」ことが最優先です。
しかし、命が助かった後、その人はどのような生活を送り、どのような人生を歩んでいくのか。
病院でのリハビリだけでは見えない世界があることを、少しずつ感じるようになりました。
退院した患者さんは、その後どのような毎日を送っているのだろう。
本当にその人らしい生活を取り戻せているのだろうか。
そんな思いが、私の中で大きくなっていきました。
訪問リハビリで教えられた「生活こそが人生」
訪問看護ステーションで働き始めてから、私の価値観は大きく変わりました。
病院では「患者さん」として接していた方々が、自宅では「夫」であり、「妻」であり、「父」であり、「母」であり、「祖父」「祖母」として暮らしていました。
そこには病院では見えなかった生活がありました。
お気に入りの椅子に座る時間。
庭の花に水をあげる朝。
家族と囲む食卓。
近所の人との何気ない会話。
一つひとつは特別なことではありません。
しかし、それこそが、その人の人生そのものでした。
私は改めて気づきました。
リハビリの目的は、「歩けるようになること」だけではありません。
歩けるようになって、「どこへ行きたいのか」。
手が動くようになって、「何をしたいのか」。
その人が大切にしている暮らしや役割、生きがいを支えることこそ、作業療法なのだと感じるようになりました。
終末期の出会いが教えてくれたこと
訪問リハビリでは、多くのがん終末期の方とも関わらせていただきました。
そこでは、身体機能の回復を目標にすることが難しい場面も少なくありません。
それでも、人生には最後まで「その人らしく生きる時間」があります。
「もう一度、自宅の庭を見たい。」
「家族と一緒に食事をしたい。」
「孫の顔を見たい。」
「住み慣れた家で最期を迎えたい。」
その願いは決して大きなものではありません。
しかし、その人にとっては人生で最も大切な願いでした。
私は何度も思いました。
人は、身体だけで生きているのではない。
人は、「大切な人」とのつながりや、「自分らしくありたい」という思いに支えられて生きているのだと。
「生きる意味」を考えるようになった理由
終末期の利用者さんと関わる中で、私は自分自身にも問いかけるようになりました。
「私は、何のために生きているのだろう。」
「人生で本当に大切なものは何だろう。」
その答えを探したくて、医療だけでなく終活や相続についても学び始めました。
相続終活専門士やファイナンシャル・プランナー(FP)の資格を取得したのも、「人生を支える」という視点をもっと広げたいと思ったからです。
病気だけではなく、お金や家族、住まい、相続、人生の最終章まで含めて考えることが、その人らしい人生につながると感じたのです。
作業療法士として、そして一人の人間として
20年間、多くの人生に寄り添わせていただきました。
私は患者さんを支えていたつもりでした。
でも、本当は私の方が、多くのことを教えていただいていたのだと思います。
生きること。
働くこと。
家族と過ごす時間。
誰かを思う気持ち。
そして、人生の終わりを受け入れながらも、最後まで自分らしく生きようとする姿。
その一つひとつが、今の私の価値観をつくっています。
このブログで伝えたいこと
このブログでは、作業療法士として学んだ知識や技術だけではなく、20年間で出会った多くの人生から教えていただいたことを、自分の言葉で伝えていきたいと思います。
「リハビリとは何か。」
「作業療法とは何か。」
そして、「人は何のために生きるのか。」
この問いに正解はありません。
だからこそ、一緒に考えていける場所になれば嬉しく思います。
もし、このブログを読んだ方が、今日という一日を少しだけ大切に感じたり、大切な人との時間を見つめ直したり、自分らしい生き方について考えるきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。
私が20年間の作業療法士人生でたどり着いた答えは、とてもシンプルです。
人は、生きるためだけに生きるのではありません。
その人らしく生きるために、生きているのです。
そして作業療法士とは、その「その人らしさ」に寄り添い、ともに歩む存在なのだと、私は信じています。

