「認知症は予防できますか?」
リハビリの現場で20年以上、病院や介護施設、在宅で多くの方と関わる中で、この質問を何度も受けてきました。
結論から言うと、「これをすれば認知症にならない」という方法はありません。しかし、生活習慣を見直すことで認知症の発症リスクを減らしたり、発症を遅らせたりできる可能性が、多くの研究で示されています。
今回は、世界保健機関(WHO)や国際的な研究報告をもとに、科学的根拠のある認知症予防についてご紹介します。
認知症予防で大切なのは「脳だけ」を鍛えることではありません
「脳トレを毎日しています。」
「漢字パズルを解いています。」
もちろん、頭を使うことは大切です。しかし、それだけでは十分とは言えません。
現在の研究では、認知症予防には「脳・身体・心・社会とのつながり」をバランスよく保つことが重要と考えられています。
世界保健機関(WHO)は、認知機能低下や認知症のリスクを減らすために、次のような生活習慣を推奨しています。
- 定期的な運動を続ける
- バランスの良い食事を心掛ける
- 高血圧や糖尿病などの生活習慣病を適切に管理する
- 禁煙する
- 過度の飲酒を控える
- 人との交流を大切にする
- 趣味や学習などで脳を積極的に使う
どれも特別なことではありませんが、毎日の積み重ねが将来の脳の健康につながります。
「歩くこと」は脳への最高のプレゼント
私がリハビリで多くの患者さんと関わる中で実感していることがあります。
それは、「体を動かす人ほど表情が明るく、会話も増え、生活全体が活発になる」ということです。
運動をすると筋肉だけでなく、脳への血流が増えます。また、脳の神経細胞の働きを助ける物質が分泌され、記憶や学習に関わる働きを支えてくれることが分かっています。
激しい運動である必要はありません。
- 少し遠回りして散歩する
- エレベーターではなく階段を使う
- 家庭菜園や庭仕事を楽しむ
- ラジオ体操を続ける
このような日常生活の中で体を動かす習慣が、認知症予防にも役立つと考えられています。
人との会話は脳への刺激になります
認知症予防で意外と見落とされがちなのが「社会とのつながり」です。
家族や友人との会話、地域活動への参加、趣味の仲間との交流は、脳にさまざまな刺激を与えます。
反対に、人と話す機会が少なくなると、考えたり、思い出したり、感情を表現したりする機会も減ってしまいます。
「今日は誰とも話さなかった。」
そんな日が続かないように、近所の方へのあいさつや買い物先での何気ない会話も、大切な認知症予防の一歩です。
今日からできる認知症予防
認知症予防は特別なことを始める必要はありません。
まずは次の5つを意識してみましょう。
- 毎日20~30分程度歩く
- よく噛んでバランス良く食べる
- 血圧や血糖値を定期的に確認する
- 家族や友人と会話する時間をつくる
- 趣味や好きなことを楽しむ
どれも健康寿命を延ばすことにつながる習慣です。
おわりに
私は20年以上、急性期から在宅まで多くの方のリハビリに携わってきました。
その中で感じるのは、「元気なうちの習慣」が将来の生活を大きく左右するということです。
認知症予防に特効薬はありません。しかし、毎日の生活を少しずつ見直すことは、今日から始められます。
健康寿命を延ばすために、まずは「少し歩く」「誰かと話す」ことから始めてみませんか。
参考文献
- World Health Organization. Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia: WHO Guidelines. 2019.
- Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet Standing Commission. The Lancet. 2024.
- 国立長寿医療研究センター「認知症予防に関する研究」

